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2005年06月18日

【書籍紹介】ホストの世界~真夜中への招待状~


 友達が家に遊びに来て一緒にテレビゲームをやっていたんだが、そのうち腹が減ってきて、「何か食おう」って事になった。ちょうど俺が前日に買ったまま食べ忘れていたコンビニのおにぎりがいくつかあったが、賞味期限はすでに過ぎていた。
「どう思う?大丈夫かな?」
「大丈夫に決まってんだろ、一日ぐらい。勿体ないから食っちまおうぜ」
「だな。お前どれがいい?」
「じゃんけんで決めようぜ!」
 結局二人で仲良く分けて食べた。
 するとその中の何が悪かったのか、その友人は食あたりを起こして二日間入院。
「お前ついてないな。普段の行いが悪いんじゃないか?俺は何ともないのに」
「ふざけんなよ!俺はお前と違ってデリケートなんだよ!!」
と二人で大笑いだった。
 ところが転んでもタダじゃ起きないその友人は、その入院した病院の看護婦と仲良くなり、やがてその子と付き合いだした。そいつはその後、その看護婦と結婚して今では子供までいる。
 あの日俺の部屋にあったおにぎりの中の「どれを食べるか」ってのは小さな小さな選択だ。でもそれが結果として彼に、「入院」を招き、「彼女との出会い」を招き、「結婚」を招いた。実は彼の人生の中であれは「最大級の選択」だったわけだ。おまけにその選択は、嫁さんになった彼女の人生にも大きく影響を及ぼした事になる。
 もし俺が当たりのおにぎりを引いても、当然だが同じ結果は招かなかっただろう。腹痛さえ起こさなかったかもしれない。彼が当たりを引いたからこそ導き出された結果だ。「日常の選択」ってのはそんなもんだ。
 振り向くと「過去」には延々と歩いてきた足跡が一本の道として残っている。先の方には行き着く先の見えない「未来」への道が、今自分が立っている「現在」という点から何百と分かれて延びている。そしてその一つ一つの道はそれぞれ違う未来へ通じている。
 何もない平凡な日常を過ごしてる様に感じてても、自分が立っている一秒単位の「今」という点は常にいくつかの道への分岐点だ。そこで知らず知らずの間に俺達は色んな選択をしながら進んでいる。その無意識の選択が、全く違う未来へ続く大きな分かれ目になっているかもしれない事に気づかないまま。
 だから「今」は、一瞬なのだけれど凄く大切な時間だ。常にそこに選択枠がある事を意識してると、平凡な日常でも面白い。選択しなかった方の未来の行き着く先は確認のしようもないし、勿論その出会いや選択が良い結果ばかりを生むとは限らないのだが。

 口語調の軽いタッチの記述でありながら、上記のくだりは、転職を考える者にとって心に強く刻み込まれるものではないだろうか。ここだけを読めば、これがホストの体験記の一部であると誰が信じられよう。そんな著者の文章力(構成力)の高さに、正直脱帽し、冒頭で引用してみた。
 そもそも版元が、芥川賞受賞作『蹴りたい背中』(綿矢りさ)で有名な河出書房新社刊。期待していいのだろうか?とはいえホストの体験記…半信半疑で手に取った。しかし読んでみると、予想はいい意味で裏切られた。
 颯爽と描かれる秘密の楽園…本書の楽しみ方は2つある。記述の大方を作り話ととらえ、エンターテイメント小説のように楽しんでも良し。あるいは、知られざるホストの生態(心の機微)を垣間見ることができたとほくそ笑むも良し。
 いやそもそも、なぜこの本を「今月の1冊」にしたのか、理由をご説明していなかった。そう、本書の著者の沢村拓也氏は、なんと、公務員からホストへの役人廃業者なのだ。
 公務員とホスト。お堅い職業とその対極のようにイメージされるが、なかなかどうして、管理人の公務員の知り合いでも、学生時代にホスト(バイト)経験のある人がいる。しかも名門国立大出身者で。
 一方、本書の著者はなんと服務規程違反を承知で公務員時代にホストを兼業していたという強者でもある。
 「ホストなんて」と言ってしまうのは簡単だ。しかしどれほどの人が彼らの本当の姿を見て論評しているのだろうか。そこを問いたい。多くの人は、メディアに植えつけられたイメージだけで語ってはいないだろうか。本書を読んで、そういった自問自答が起こり、管理人はちょっと自分が恥ずかしくなった。
 「公務員が絶対楽」「公務員を辞めるなんてもったいない」という黄金律に挑もうとしている人ならば、「ホストなんて○○」などという伝聞やイメージに規定された固定観念にはまっていてどうする?と思えてきたのだ。固定観念から脱するところにしか、公務員の桎梏から逃れる方法は見つからないと私は思っている。
 直接役人廃業に役に立つというわけではないが、発想の転換と話の種のためにも、ぜひ本書の一読をお勧めしたい。

投稿者 nao_yamamo : 2005年06月18日 22:02

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