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公務員からの「出口」を考えてみる

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執筆者 吉田真弥尾さん(現役公務員)

経歴

大学卒業後、某地方自体体に奉職。
20年以上勤務する傍ら、公務員としての働き方に不安も感じ始め、独学で社会保険労務士の資格を取得。
当面退職予定はないものの、常に自己研鑽に磨きをかけるため新しい知識の入手に日々邁進中。

公務員といえども永久に公務員をやり続けることはできません。出口が必ずあります。
今回は、公務員の「出口」について考えてみます。

最近労働について取り上げられることが多いですね。「会社が辞めさせてくれない」とか「会社に辞めるといったら損害賠償を請求するといわれた」とか。
労働法令の基本を知っていれば大丈夫なのですが、残念ながら学校であまり習わないのでこのようなことで悩むことになるのですね。

実は公務員と民間企業では「出口」(「入口」もですが)が違うのですが、民間企業についてのことがよく取り上げられていること、公務員と民間企業の制度を比較した方がよくわかることから、民間企業についても取り上げようと思います。

 

【民間企業の「出口」について】

 民間企業の場合、民法及びその特別法である労働基準法、労働契約法の適用があります。

民法では「雇用契約」として規定されています。民法第627条には、

「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」

とされています。


いわゆる正規雇用ではこの「期間を定めない」契約ですが、これは民法においては「いつでも」「どちらからでも」解約の申し入れをすることができるとされています。
この「申し入れ」は、使用者側からすれば「解雇」であり、従業員側からすれば「自己都合退職(あるいは依願退職)」となります。


しかしながら、事業主側の力が従業員よりも強いため、事業主側からの申し入れである「解雇」については労働契約法第16条で次のように制限が加えられています。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

これは具体的には「整理解雇の4要件」といわれています(ここでは省略します)。
なお、雇用契約の解約申し入れについては上記のように「二週間経過で効力が発生する(雇用が終了する)」とされており、相手側の同意を条件としていませんから「会社が辞めさせてくれない」というのは基本的にありえないことになります。
その反面、会社が解雇するのにも従業員の同意は不要ということでもあります(もちろんさきに述べた労働契約法の制限はあります)。



【公務員の「出口」】

 さて、公務員の場合はこれとはまったく違います。
公務員関係の法令から出口のキーワードを探してみると、「定年退職」と、「免職」です。

「定年退職」は説明の必要もありませんね。「免職」は公務員の皆さんが恐れているものです。「クビ」というやつですね。民間では「解雇」にあたります。


まず法令では公務員は、「規定の理由がない限り、本人の意思に反して免職されない」と身分保障をしており、その上で理由として、

国家公務員法では


  • 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合 


  • 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合


  • その他その官職に必要な適格性を欠く場合


  • 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合




地方公務員法では、


  • 勤務実績が良くない場合 


  • 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合


  • 前二号に規定する場合の外、その職に必要な適格性を欠く場合


  • 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合




と列記しています。本人の成績不良や心身の理由の他に「廃職や過員」という整理解雇とも言える項目があります。
なおこれは「分限処分」といわれるもので、これで免職となると「分限免職」と呼ばれます。
「消えた年金」問題に絡み社会保険庁が廃止されたとき、大規模な分限免職処分が行われたのが著名な例です(最近無効の判決が出ましたが)。

このほかに、懲戒処分としての免職処分があり、これは「懲戒免職」といわれます。


 と、ここまで見てきて「何か足りないなあ」と思いましたか?そう、自己都合退職についての決まりが法令にはないのです。そうすると、退職願を出して辞めているのって、あれは何に基づいていやっているのか?と思いますよね。


 少し長いですが、判決文を引用します。

「退職願(申出)の法律的性質は、職員の任用が行政行為であると考えられるので、その辞職、すなわち職を離れるについても任命権者の行政行為によらなければならない。したがって、職員は、退職願を提出することによって当然かつ直ちに離職するのではなく、退職願は本人の同意を確かめるための手段であり、その同意を要件とする退職発令(行政行為)が行われてはじめて離職することとなるものである。(高松高裁昭35・3・31判決・行政裁判例集11巻3号796頁)」

 
退職願を出したら、それに任命権者が同意するとして退職の発令が出て、それをもってはじめて辞めることができる、ということです。
ちなみに私が所属する組織では、人事異動に使われる「人事異動通知書」に、「辞職を許可する」と書かれたものが渡されます。


 それじゃ、同意されなければ辞められないのかということですが、国家公務員の場合は人事院規則8-12(職員の任免)の第51条で「任命権者は、職員から書面をもって辞職の申出があったときは、特に支障のない限り、これを承認するものとする。」とされていますので、まず同意されると考えてよいでしょう。地方公務員の場合も同様の取り扱いと考えられます。

なお、「特に支障」というのは、例えば犯罪行為で捜査中など今後処分が予定される場合で、ここで辞められると処分ができない(退職金を払わないというのも含みます)というような場合ですから、通常の場合はまずあたらないでしょう。

 というわけで、公務員の場合でも依願退職はできるが、それには任命権者の同意がいる。それは基本的には同意される、ということですから、これから辞めようという方、淡々と手続きをすれば大丈夫です。(2013年5月執筆)



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