労務関係のお悩み

公務員辞めたらどうなる ~業務中災害・通勤災害編~

カテゴリ

労務関係の記事

第二の仕事人生

退職・その他情報

取材エリア

地域関係なし

お名前

執筆者 吉田真弥尾さん(現役公務員)

経歴

大学卒業後、某地方自体体に奉職。
20年以上勤務する傍ら、公務員としての働き方に不安も感じ始め、独学で社会保険労務士の資格を取得。
当面退職予定はないものの、常に自己研鑽に磨きをかけるため新しい知識の入手に日々邁進中。

無事に仕事ができるに越したことはありませんが、万が一業務中にケガをしたとき、あるいは通勤中に事故にあったような場合のために補償の制度があります。

 

【公務災害補償制度】

 公務における事故等の災害により通院をした場合や休業して給料がもらえない場合など、補償をする制度があります。これを公務災害補償制度といいます。

国家公務員の場合は「国家公務員災害補償法」、地方公務員の場合は「地方公務員災害補償法」に規定されています。民間企業の場合は「労災保険」(労働者災害補償保険)という制度がありますが、ほぼ同じ制度です。


どんな場合に補償されるのか

・公務の遂行中に
・公務に起因して


負傷したり、病気になったり(いわゆる「職業病」)、死亡したりした場合に「公務災害」として補償されます。
公務の遂行中というのは仕事中のみならず、例えば移動中に階段で転んだような場合や、始業前の着替えの最中にケガをしたような場合も含まれます。

また、通勤の途中で事故にあったような場合も「通勤災害」として補償され、補償を実施する機関は、国家公務員の場合は各省庁、地方公務員の場合は各地域にある「地方公務員災害補償基金」です。なお、手続きは職場を通じて行います。



どんな補償があるのか

補償についてみていきます。なお、公務災害と通勤災害では補償内容は基本的に同じです。


【療養補償】


病院など医療機関で医療を受けられます(医療行為そのものが現物支給される)。

なお、労災保険の場合は療養補償給付(名前に「給付」がつきます)の請求書に事業主が証明し、労働者自身がその請求書を持って医療機関に受診するという流れになりますが、公務災害補償の場合は公務災害の認定を受けてから、請求書を医療機関へ提出することになります。
したがって、初診のときは認定が間に合いませんので、何も出さずに医療機関に受診することとなります。

なお、通勤災害の場合に限り200円の一部負担が必要です。

 

【休業補償】

公務災害や通勤災害で仕事ができず、給料が支払われない場合に、平均給与額(前3ヶ月間の給料合計をその期間の暦日数合計で割ったもの)の6割が支給されます。これとは別に、「休業援護金」として2割が支給されますから、合計8割が支給されます。

なお、労災保険の場合は休業4日目からしか支給されません(3日間は保険ではなく事業主が支給する)が、公務災害補償の場合は1日目から支給されます。

 

【傷病補償年金】

療養開始後1年6ヶ月が経過してもケガや病気が治らず、規定の傷病等級1~3級に該当する場合、療養補償年金が支給されます。この場合は休業補償が支給されません。なお、1年6ヶ月経過して治っていなくても、傷病等級に該当しなければ引き続き休業補償が支給されることになります(病気療養にて休業の事実が続く限り支給される)。

 

【障害補償】

ケガや病気が治り(症状が固定化し)、規定の障害等級に該当する場合、年金または一時金が支給されます。仮にケガの具合がまた悪くなったり、病気が再発したりしたような場合には、「治っていない」こととなって年金は支給されなくなります。

 

【その他】
その他遺族補償や葬祭補償などがあります。



【公務員を辞めた後はどうなるか】

休業補償や傷病補償年金を受けている間に退職をすることもあると思います。
この場合、退職後も引き続き同様に給付を受けることができます。退職により補償が打ち切られたりはしませんから、心配は無用です。

ただし、各種手続きは退職後も元の職場を通じて行うこととなっていますから、留意が必要です。


例えば休業補償を受けていて、ケガや病気が治ったときなどには元の職場に書類等を提出する必要があります。
なお労災の場合は、窓口は労働基準監督署である点が違います(事業主は請求書に証明を行うのみ)。

 

【「公務災害」と「労災」の制度の違い】


公務災害は上記のように法律で補償をすることが定められています。すなわち、使用者が直接補償を行います。
民間企業の場合も、労働基準法で事業主が補償を行うことが定められています。


労働基準法


第七十五条  労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

第七十六条  労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。

 

しかし、「労災保険(労働者災害補償保険)」に加入して、そこから給付を受ければ、事業主は補償をしなくてよいと定められています。

労働基準法

第八十四条  この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法 (昭和二十二年法律第五十号)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。

先ほど休業補償の初めの3日間は事業主が補償を行うと書きましたが、それは労災保険の休業補償給付の支給が4日目からであるためで、この3日間については、事業主(使用者)は補償の責を免れないからです。

労災保険は一人以上雇用すれば強制的に加入となりますので、ほとんどの場合労災保険を利用することになり、事業主が直接補償することは少ないということです。



最後に・・

業務中の負傷など、本人の不注意によることも多いので、業務災害の手続きを遠慮したりすることがあるかもしれません。しかし、不注意によるものも含めて事故などが起こらないように安全な職場環境を確保するのは事業主(使用者)の責務です。

したがって、遠慮したり隠したりせずに補償をきちんと受けることが、その後の職場環境の安全向上につながり、職場のみんなのためになるということです。
なお、事業主が補償を行わない「労災隠し」は労働基準法違反であり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。



労務関係のお悩みに属する他の情報を見る