公的医療保険というのは、業務外の病気やけがなどで医療を受ける場合にお世話になるものですね。
公務員の場合は共済組合が給付を行っていて、医療を受けるときには「組合員証」を窓口に提示することになっています。
公務員を辞めたら、共済組合の組合員ではなくなりますので、その後の進路によって制度が違います。
今回、このあたりの内容を現役公務員ながら社会保険労務士の資格を保有されている吉田さんに解説いただきました。
【民間企業に転職した場合】
民間企業の場合は「健康保険」の被保険者となります。医療を受ける場合の自己負担は3割で共済組合と変わりませんし、その他の給付(傷病手当金、出産手当金などの法定給付と呼ばれるもの)もほぼ同じです。
しかし、共済組合ごとに設定されていることが多い「附加給付」という手厚い給付については、「協会けんぽ」にはありませんが、健康保険組合(大手企業にある場合が多い)の場合、同様の附加給付が設定されている場合があります。
健康保険への加入の手続きは会社が行ってくれます。
【自営業などの場合】
会社員にならない場合は、市町村が実施する国民健康保険に加入することになります。
法定給付は健康保険と同様ですが、「傷病手当金」については任意給付となり、ほとんどの市町村では給付を行っていません。
国民健康保険は会社の健康保険とは違い、「被扶養者」という制度はなく世帯主がその世帯の人数分の保険料(保険税という市町村もある)を支払うことになります。
保険料の計算は前年度の所得などで決まりますから、収入が少ないと保険料の支払いが大変になることもあります。
加入の手続きは市町村の窓口で行います。
※ 国民健康保険組合
医師、建設業など一部の職域を対象とした国民健康保険組合があり、給付は市町村の国民健康保険と同等ですが、保険料が有利であったり、給付が充実していたりしています。
それらの業種に転職した場合は加入することになります。
被扶養者になる場合
家族の誰かが健康保険の被保険者で、自分の収入が限度額以下であれば、被扶養者となることができます。被保険者の勤める会社を通して手続きをします。
【任意継続とは】
公務員を辞めた後も、最長2年間共済組合の組合員を続けることができます。これを任意継続といいます。
この場合給与支払い者の負担分も合わせて加入者が支払う必要がありますので、
掛金はそれまでの約2倍となります。
また、期日までに支払わないと失効してしまい、復活させることはできません。
他の保険制度(国民健康保険を除く)に加入したときも効果を失います。
任意継続の場合も給付は同じように受けられますが、傷病手当金、出産手当金は支給されません。他の保険制度に加入しない場合、国民健康保険か任意継続かの選択になります(ここでは被扶養者になる場合は考えません)。
では、掛金の比較をして見ましょう。
まず任意継続の場合、ざっくり言うと掛金はこれまで給料から引かれていた掛金の2倍になりますが、掛金の標準となる給料は、次のいずれかの額のうち最も低い額になりますので単純に2倍にならない場合もあります。なお、期末手当等にかかる掛金は任意継続の場合はありません。
1 退職の月の初日の給料月額
2 組合員期間が15年以上あり、かつ退職時の年齢が55歳以上の場合は、1の給料月額の7割の額
3 共済組合全組合員の1月1日における平均給料月額(ところにより異なるがおよそ32万円前後)
仮に退職月の月給30万円で年収480万円として、1の場合で計算してみます。
任意継続の短期掛金率(健康保険料に相当)は120.46(平成25年4月から上がります)ですから、
30万円×120.46/1000=36,138円
となります。
つぎに国民健康保険ですが、これは市町村によって保険料の計算方法が異なります。ここでは大阪市の例で計算します。
本人が世帯主で40歳未満、妻(専業主婦)40歳未満、こども一人の場合で計算すると、所得割計算上の給与所得は330万円で、年間保険料は433,701円となり、1箇月あたりでは約36,000円となります。
この場合では、ほとんど変わらない保険料(掛金)で、手厚い附加給付が受けられるので共済組合の任意継続がお勧めといえます。
国民健康保険は世帯の人数で保険料が変わりますが、共済組合の掛金は世帯の人数に関係なく一定ですから、家族のある方、特に医者にかかる機会が多いと思われるお子様がおられるところは任意継続を選ばれた方がよいでしょう。
なお、いずれの場合も前年の収入に対して計算されるので、無収入になっていると保険料(掛金)の負担が重くなります。
任意継続の場合は掛金の支払いが滞ると即資格が失われます(猶予制度はない)。国民健康保険の場合は市町村において相談にのってもらえることもあります。
ここでの計算はあくまでも一例ですので、まずは退職される前に市町村や共済組合に問合せをされることをお勧めします。
【辞めるときに受けていた給付はどうなる?】
辞めるときに医者にかかっていた場合は、加入した他の保険の保険証を提示して医療を受けることになります。なお、任意継続の場合は任意継続の組合員証を使用します。
その他の給付、傷病手当金や出産手当金については、1年間組合員であった場合辞めた後も引き続き所定の期間給付を受けることができます。
そして注意をしていただきたいのは、高額療養費です。高額療養費とは、医療費がかさんだとき、自己負担額が1ヶ月間の上限を超えるときにその超える分を給付する「高額療養費」という制度です(各保険制度共通)。
〈 〉内は1年間に3回高額療養費に該当した場合の4回目以降の金額
共済組合でも基本的にはこの計算式になりますが、附加給付としてこの自己負担分が20,000円や25,000円(共済組合によって異なる)としているところが多く、手厚いものとなっています(健康保険組合も同様)。
協会けんぽや国民健康保険ではこの附加給付はありませんから、負担がぐっと増える可能性があります。